塩田紳二のPDAレポート

Handspring Treo 90
~キーボード付きPDAのススメ


Handspring Treo 90

 6月にTECHXNYの取材のついでに、HandspringのPalm OS搭載PDA「Treo 90」を購入した。購入場所はニューヨークのAV&コンピュータショップ「J&R」。購入価格は、299ドル(1ドル=120円換算で35,880円)であった。



●Treoシリーズとは?

Treo 270

 Handspringは従来の「Visor」シリーズから、携帯電話機能内蔵PDA「Treo」シリーズに主力を移しており、まず、今年初めにモノクロ液晶を備えた「Treo 180」を発売した。ちなみにTreo 180には、キーボード付きのものと「グラフィティ」による手書き入力のみの「Treo 180g」の2タイプがある。

 Treo 90は、デザイン的にはTreoシリーズと同じではあるが、携帯電話機能が内蔵されていない。同社はTreo 90と同時期に、カラー液晶を搭載し、携帯電話機能を持つ「Treo 270」をリリースしている。一見、両者はよく似ているが、本体の厚みやフロントカバーのヒンジ部分などが違っている。Treo 270のフロントカバーは裏側にスピーカーを内蔵しており、単純なカバーではなく、さらにカバーの開閉状態をソフトウェアで検出できるような機構がヒンジ部分にある(このため、Treo 90ではカバーを取り外せるが、Treo 270ではできない)。

 Treoシリーズは、Visorシリーズと違いSpringboardスロット(Visorシリーズ独自の拡張スロット)を持たないため、Visor用の周辺装置は使えない。しかし、Treo 90にはSDメモリーカード/MMCスロットが装備されている(ただし現時点ではSDIOには対応していないので、利用できるのはメモリカードのみ)。

Treo 90のカバーを閉じたところ。カバーを閉じるとキーボードには触れなくなるが、透明な部分から液晶表示を見ることができる カバーを開けたところ。カバーは上に開くが、180度までは開かない。なお、このカバーは取り外し可能 背面上部。真中にSDメモリーカードスロットがあり、左側の白いものが電源ボタン。右側にはスタイラスが格納できる。SDメモリーカードスロットの横はIrDAの受発光部になっている。また、電源ボタン部分は、充電中に点滅するほか、アラームが鳴ったときに点滅させることもできる

 なお、このTreo 90にはクレードルはなく、本体には、USB接続ケーブルとACアダプタが附属する。このACアダブタは単独でTreo 90に接続可能なもので、オプションのトラベルアダプタは同じACアダプタと各国用の変換プラグが同梱されたもの。特にACアダプタが2個必要ないのなら、トラベルキットを買う必要はない(筆者は買ってから気が付いた)。


●スタイラスいらずのよくできたキーボード

 Treo 90のCPUは33MHzのDragonball VZ。液晶は、バックライト付き透過型のSTN液晶で解像度は160×160ドット。ハードウェア的にはいたって「普通」のPalm機だが、メモリが16MBもあり、メモリカードを使わなくとも大きな辞書などをインストールできる。

キーボード部分の拡大写真

 スペックは別にして、このマシンの一番良いところは、そのサイズと内蔵のキーボードである。Treo 90の本体サイズは71×16×108mm(幅×奥行×高さ)、重量は114gで、胸のポケットに入れておいてもほとんどその存在を意識することがない。毎日持ち歩くPDAとしては特に有利な条件である。また、キーボードによりほとんどの操作が可能で、スタイラスを出して作業する必要がないのもメリットの1つ(一応スタイラスは本体に内蔵されている)。

 いままでPDAといえばペン(スタイラス)操作という常識があって、Palm機やPocket PCはその路線を歩んできた。しかし、このキーボード、実際に使ってみるとその良さが実感できる。なによりも便利なのは、片手でも操作できることだ。

 キーボードの配列は右の写真のとおり、QWERTYに準拠している。最も上に来る数字の行はなく、3行目の「M」の右側も多少違う。最下行の刻印のない大きなキーがスペースでその左側がシフトキー、右側の端はショートカットキー。Zの左の青いキーを押した後キーを入力するとキートップにある青色の文字やコマンドが入力される。また、文字や記号の入力後にスペースの隣にある「...」キーを押すと似た記号やアクセント付き文字を入力できる。

 キーボードのメリットを一番感じるのは「アドレス」(住所録)である。Palm OS標準の住所録は、文字を入力することでインクリメンタル検索が可能だが、グラフィティを使う場合、片手でマシンを持ち、もう一方の手でスタイラスを持たねばならない。しかし、Treoでは、片手で持ち、親指でキーを押すことができるため、両手を使う必要がないのである。

 カバンを持ったまま、あるいは電車でつり革につかまっているときなど、両手が使えない場面というのは少なくない。Treoはサイズが小さく親指の付け根と4本の指で持ったときに親指が遠い側のキーに届くから、片手で操作できるのだ。イメージとしては携帯電話のキー操作の感じである。

 なお、Treo 90の住所録は、Palm OS標準の住所録と違っていて、押したキーで始まる候補のみが表示されるようになっている。日本語版Palm OSではその文字でヨミガナがはじまる最初のレコードへ移動するだけだが、Treo 90ではすでに絞り込まれた候補が表示され、項目がそう多くなければ、レコードを見つけやすくなる。

 ちなみにここで、IrDA経由で携帯電話のダイヤル(もちろん通話用)が可能なのだが、残念ながら英語版のため、対応しているのはGSM系の電話機のみ。GSM電話機ならばショートメッセージサービスやインターネット接続もIrDA経由で利用可能である。なおTreo 90とNTTドコモのPDC携帯電話を「IrGear」で赤外線接続してみたところ、データ通信が可能だった。つまり、住所録のダイヤル機能がGSM携帯電話にしか対応していないということである(これは日本語版Palm OSなどでは使われていないPhoneドライバ経由で行われる)。


●メニューなどもキーボードで操作可能

 Palm機でグラフィティ領域に割り当てられているアイコン類は、キーの組合せで入力が可能になっている。また、メニュー表示やショートカットのためのキーがあり、メニュー選択もキーボードからすべて操作できる。

 記号類もキーボードから入力が可能で、キートップには記号が書かれているために入力がしやすい。グラフィティでも記号は入力できるのだが、普段使わない記号などはオンラインリファレンスを見たり、ソフトキーボードで入力なければならず、ちょっと煩わしかった。しかし、Treo 90では、キーのシフトで入力が可能で、アクセント記号付きのアルファベットの入力までできる。

 そのほか、従来のPalm機で液晶面へのタップが必要だった操作もキーボードで可能。たとえばメモや住所録を開く操作は上下キーとリターンキー(スペースキーも可)で行える。


●J-OSで日本語化

 内蔵アプリケーションは、基本的にはVisorシリーズと同じで、Palm OS標準のアプリケーションのほかに「Date Book+」(拡張機能付きの予定表)や「City Time」(ワールドタイムとタイムゾーン設定)などが含まれている。さらにHandspringオリジナルのWWWブラウザ「Blazer」や「Wordsmith」(ワープロ。これはCD-ROMからインストールする)なども付属している。そのほか、電子メールソフト(One-Touch Mail)やSMS(GSMのメッセージ機能)用アプリケーションなどがCD-ROMに収録されている。

 現在のところTreo 90は英語版しかない。J-OSを使うことで日本語の入力、表示が可能になる。ただ、アプリケーションを日本語化するローカライザーが揃っていないので、一部のアプリケーションでは日本語の表示が化けてしまうことがある。

Treoの液晶表示。これは画面を直接撮影したもの。カラー表示は12bitで、解像度は160x160ドット。バックライトの明るさやコントラストの調整も可能

 日本語入力にはJ-OS付属のかな漢字変換機能や予測変換入力ソフト「POBox」、あるいはジャストシステムの「ATOK for Palm OS」が利用できるようだ。ただし、Treo 90にはグラフィティ領域そのものがないために、グラフィティ領域の特定の部分をタップして起動するようなソフトウェアは利用できないことがある。

 筆者は、POBoxと「PBToggleDA」(Yoney氏作)、「AdA」(大森正則氏作)といったツールを組み合わせて、POBoxのON/OFFをハードウェアキー(Palm機が標準で持つ4つのアプリケーション起動用キーと上下キー)から行なえるようにしている。長文を入力することはないが、スケジュールや住所の登録程度であれば、片手で簡単に作業できる。


●これからはキーボード付きPDAの時代だ

縦横のサイズはPalm m505(写真では下においてある)よりも1cm程度小さい。ただし、m505よりも厚い。

 小型でカバーも備えるTreo 90は、そのままポケットに入れておけるため、以前に使っていたPalm m505よりもより身近なところで使える気がしている。実際には、サイズの差は僅か(Treo 90のほうが縦横が1cm程小さいが、厚みがある)で、重量はTreoが25g軽い。どうもキーボードで手軽に使えるというのが原因のようである(携帯電話と同じくハンドストラップが取り付けられる穴もある)。

 個人的には、もはやキーボードから操作できないPDAは使いたくないと言いたい。この感じからすると、今後のPDAでは小さくてもキーボードというのが主流になってもいいのではないかという気すらする。実は、Treo 90購入まで使っていたPalmのm505やi705も小型のキーボードを付けて使っていた。文字入力よりも操作の多いPDAでは、スタイラスを取り出すことなく使えるキーボードのほうが便利だった。タッチスクリーンは指でも操作できるのだが、細かい操作ができないことと、画面に指紋が付くのがどうも気になっていたのだ。

 そういえば国内で販売中のザウルスや折りたたみ型CLIEにもキーボードが付いているし、Palm機やPocket PCと一体になるようなキーボードはサードパーティからも多く発売されている。また、米国ではRIMの小さなフルキーボードを備えた「BlackBerry」というハンドヘルド機も人気が高い。

 Treoを買わなくとも、PDAと一体化するミニキーボードをオプションやサードパーティ製品として購入できる機種も少なくない。外出先でPDAを使うなら、一度こうしたミニキーボードを試してみることをおすすめする。

 昨年あたりから、各社がPDAに参入してきているようだが、キーボードのないタイプがほとんど。デザイン的にはヒットしたCompaqの「iPAQ」に似たものが多く、特に強い個性を感じない。この際、各社もキーボード付きのモデルを検討してほしいものだ。

□Handspringのホームページ
http://www.handspring.com/
□製品情報
http://www.handspring.com/products/treo90/
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【5月29日】米ハンドスプリング、携帯内蔵PDAのカラー液晶搭載版を発売(ケータイ)
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/0,,9592,00.html
【keyword】グラフィティ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0125/key194.htm#GRAFFITI

(2002年8月1日)

[Reported by 塩田紳二]

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